8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
「いつもは優しくないみたいじゃありませんか」

「優しくなどないだろう。犬にばかり構って、俺のことなどいないもののように扱うではないか」

「そんなことありませんわ。……なによ、心配して見に来たのに」

 フィオナは急速に悲しくなってきた。まさか見舞いに来て日頃の文句を聞かされようとは思わない。ただ、心配だっただけなのに。
 ジワリと目の淵に涙が浮かぶ。これだけで泣きたくなった自分が信じられなくて、フィオナは立ち上がった。

「帰ります」

「ちょ、待てっ」

 オスニエルは素晴らしい瞬発力で上半身を起き上がらせ、フィオナの腕を掴んで止めた。
 そして二度、腕を握り直し、二度瞬きをする。

「……フィオナ?」

「はい」

「本物ではないか」

 途端に、彼の顔が一気に赤くなっていく。そして、フィオナの手を離すと、布団にくるまった。

「なっ、夢と言ったじゃないか、お前」

「オスニエル様があんまりかわいいからそう言ったんです」

 さっきまで苛立ちしかなかったのに、真っ赤になった顔を見たら胸がほころんだ。
 布団の合間から見える黒の髪。フィオナはむず痒い気分で、ゆっくり撫でた。

「……孤児院で、病気のときは心細くて誰かにそばにいて欲しいものなのだと聞いたのです」

 オスニエル内蔵の布団の塊が、ピクリと動く。

「それで、お見舞いをしたいと思ったのですわ。オスニエル様に市井の食べ物をお渡しするわけに参りませんので、広場で買ってきたお花しかありませんが」

「花……」

 オスニエルの頭がぴょこりと布団から飛び出してきた。サイドテーブルに置いた花を見て、目を見開く。その一瞬に顔がほころんだのを、フィオナは見てしまった。

(この人ホント、たまにめちゃくちゃかわいいな……)

「早く元気になってくださいませね」

「あ、待てっ」

 今度は服を掴まれる。

「なぜ帰る」

「私がいては、ゆっくり眠れなさそうですもの」

「もう平気だ」

「平気じゃありません。熱が下がっていませんよ」

 額を触れば、結構熱い。

「お前の手は冷たいな」

 それは先ほど氷を出したからだが、フィオナは黙っていた。オスニエルが上から手を押さえてくるので、ドキドキして落ち着かない。
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