8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~


 今日はポリーもフィオナも夜会に出るため、ドルフは後宮で留守番だ。寝心地のいいベッドの中央に陣取り、丸くなって惰眠をむさぼっていると、突然、胸のあたりがチクンと痛んだ。

『……フィオナ?』

 加護を与えるということは、相手と繋がるということだ。これはおそらく、フィオナになにかが起こったのだ。
 ドルフはすぐさま抜け出すために、扉に向かった。鍵はかけられていたが、大きくなれば、小さな細工も尻尾や歯で簡単に操作できる。
 無事部屋から抜け出したドルフは、耳をピンと立て、「ワン!」と叫んで廊下を走った。
 が、広間に向かう途中で、突然目の前に剣が付きたてられた。

「おっと、ここは獣が入るところじゃないぜ」

 ドルフはさっと下がって、男を睨む。

「あれ、お前……ドルフじゃないか」

 男はトラヴィスだった。

「うー」

「おいおい、俺だよ。忘れちまったのか」

 忘れるわけはない。フィオナの幼馴染み、剣豪のトラヴィスだ。
 彼はドルフをひょいと抱き上げた。ドルフは形ばかり抵抗してみたが、意外とがっちりつかまれていて、彼に離す気はなさそうだ。

「いいところに来たな。お前がいるとフィオナの部屋に忍び込む理由になる」

「ワン!」

 『離せ』と言ってみたが通じない。ドルフは迷っていた。
 先ほどからフィオナの生命反応が酷く低い。

 聖獣姿に戻れば、トラヴィスから逃れ、フィオナを救いに行くこともできないわけじゃない。時を止めれば、彼女の連れ出すことも簡単だ。とはいえ、時が動き出した後、彼女が消えていれば大騒ぎになる。
 自由気ままな聖獣とはいえ、今日のような人の多い日に、聖獣姿で動き回ることが得策ではないことくらいは、わきまえているつもりだ。

(まあ、最悪時を戻せばいいか)

 そうやって何度も、ドルフはフィオナの人生を巻き戻してきたのだ。九度目の人生を始めるのも問題ない。今が一番、ドルフが望んだ人生に近いが、新しい人生はもっとドルフの望むものになる可能性だってある。ドルフの命は長いのだ。フィオナが自分だけを選ぶのをゆっくり待つつもりだった。

「ワン」

「そうそう。そうやっておとなしくしていてくれよ」

 トラヴィスはほくそ笑んで、ドルフを抱えて庭の方へと向かった。

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