8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
 フィオナが突然倒れ、護衛騎士に抱き上げられているのを見て、オスニエルは血が止まったような気がした。
 動きを止めたオスニエルに、ジェマは怪訝そうに問いかける。

「オスニエル様?」

「ジェマ嬢、悪い」

「ちょっ、お待ちくださいませ、オスニエル様」

 すがってくるジェマの手を引きはがし、オスニエルは、フィオナの元へと駆けていく。
 側にいたのは、ミルズ侯爵令嬢だ。反応のないフィオナにオロオロとしている。

「フィオナ様、しっかりなさって? どうしましょう。お酒は苦手だったのかしら」

「どうした?」

 そこにオスニエルが割って入って来たので、令嬢は助けを求めるように顔を上げた。

「オスニエル様、申し訳ありません。フィオナ様、カクテルを飲んだ途端に、お倒れになってしまったのです」

 フィオナの顔は赤く火照っていて、額に少し汗をかいていた。一見すれば、酒に酔って倒れたようにも見える。
 けれど、先ほどまで平然と踊っていたのだ。
 それにオスニエルは知っている、フィオナがそんなに酒には弱くないことを。

「父上、この場を騒がせたこと、お詫びいたします。フィオナは休ませます。誰か、後宮に医師を呼んでくれ」

 オスニエルはカイの腕から奪うように彼女を抱き上げ、そう指示を出す。
 彼が女性を抱き上げた姿を初めて見る上流貴族たちは、驚いたように息を飲んで、消えていく後ろ姿を見つめ、ざわついた。

「あー、皆の者。側妃のことはオスニエルに任せておけばよい。続きを楽しんでくれ」

 場を収めるために国王がそう言い、招待客たちは再び鳴り出した音楽にホッとしたように動きだす。
 ミルズ侯爵令嬢は、しばらくオスニエルが出ていった扉を見ていたが、気を取り直したように令嬢たちと歓談し始めた。
 横からフィオナを奪われたカイは、動きだす人々を観察しながら、考え込んでいた。

「カイさん、私も後宮に戻ります。フィオナ様のお世話をしなきゃ」

 そう宣言し、走り出したポリーを、カイは一度引き留めた。

「待って、ポリー。フィオナ様ってアルコールに弱い? 一杯で倒れるくらい」

「いいえ? ……フィオナ様、そんなに弱くないわよ。一杯程度じゃ全然……」

 カイは眉根を寄せ、今まさに回収されそうだったグラスを給仕から奪った。グラスの表面はまだ濡れていて、中の液体の特定くらいはできそうだ。
 カイはこっそりと警備隊長のもとに行き、「このグラスに入っていた液体に、毒物がないか確認してください」と依頼した。

< 126 / 158 >

この作品をシェア

pagetop