8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
 後宮のフィオナの居住区は、不用心にも鍵が開いていた。

(……後で、叱っておかなければ)

 そう思いつつ、寝室までフィオナを運んでいると、すぐに侍医がやってきた。
 先ほどから、フィオナの呼吸はだんだんと荒くなってきていて、熱も上がってきている。

「侍医、どうなんだ、フィオナは」

「酒のにおいはしますが、酔っただけでここまで発熱はしません。最近体調不良だったとか、そういうことはありませんか?」

「ない。先ほどまで元気だった」

 オスニエルはフィオナの手を握る。握っても握り返してくることはなく、踊っていたときよりもずっと熱い。

「とりあえず、解熱剤を出しましょう。しばらく様子を見てください」

 侍医が片付けを始めたころに、フィオナの侍女が戻ってきた。

「オスニエル様、すみません。遅くなりました」

「解熱剤は処方された。今のところはそれだけだな」

 オスニエルはちらりと視線を送り、すぐフィオナへと戻した。見ていないうちに病状が急変するような気がして落ち着かなく、目を離すのが怖かった。

「あの……、あとは私が見ておりますので、オスニエル様は会場にお戻りください」

 侍女はおずおずとそう言ったが、今の心情では、とても笑顔を振りまく気にはなれない。

「いや、いい。俺が看る。お前は、頭を冷やすタオルをとってきてくれ」

「えっ、あ、はあ」

 侍女は戸惑いながらも寝室から出ていった。どこに行ったのか、ドルフもいない。こうしてふたりきりになるのは初めてなんじゃないかと、オスニエルはハタと気づいた。

「……お前の意識があれば、最高だったのにな」

 うっすら汗のにじんだ額を、オスニエルの乾いた手で撫でつける。頬を触っても熱い。オスニエルは胸が締め付けられるようで、ただギュッと彼女の手を両手で掴んで祈った。

「フィオナ……。目を開けてくれ」

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