8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
頬を染めて語る息子に、国王はややあきれた様子だ。
「分かっているのか? お前は、ジェマ侯爵令嬢と結婚するんだぞ? 正妃は彼女だ」
「いえ。彼女とはまだ婚約もしておりませんし、今後もする気はありません」
「ならん! 正式にしていなくても、彼女は昔からダントツの正妃候補だ。血を重んじるならば、彼女しかありえない」
オスニエルは頭の固い父親を前に途方に暮れる。だが、自分もたしかにそうだったのだ。
血統がなにより大切で、人の中身など見ようとしてこなかった。だからこそ、フィオナの人となりを知る前から彼女を排除することばかり考えていたのだ。
だが彼女は、そんなことは気にせず、周囲の人間と触れあっていった。彼女を好きな人間が周りに集まり、穏やかで幸せな空気に包まれる。
フィオナとならば、この国を中からよくして行ける。それ以上に、正妃にふさわしい私室などないだろう。
「血など関係ありません。フィオナは民のことを考えてくれています。そもそも、父上がフィオナと結婚しろと言ったのでしょうに。父上がなんと言おうと、俺はフィオナを正妃にします」
「こら、待て、オスニエル」
言いたいことを言って、オスニエルは部屋を出た。
これまで、オスニエルは父に逆らったことはなかった。
不満はあっても、直接それを口に出すことはなかったのだ。だが今は、父に逆らってでも、通したいという思いがある。
「変なところで時間を食ったな。ロジャーはどこだ」
きょろきょろと辺りを見ていたら、後宮に続く道で、ジェマと警備の兵が話しているのが見える。
(……妙だな)
ゆっくり近づいてみると、警備の兵は今朝、フィオナの部屋で会ったトラヴィスという男だということが分かった。
ますます気になり、オスニエルは大きな体で中腰になりながら近づいて行った。
「じゃあ、ちゃんと効いたのね」
「ええ。発熱がずっと続いているそうです。……どうやって入れたんです? あんな人の多いところで」
「さりげなく誘導しただけよ。あの令嬢は最初から、あの女と仲ようなるつもりで、飲み物を渡そうと狙っていたから、こちらがおいしそうよって。彼女はいつも、自分用のグラスは必ず左手で取るの。他の人に渡したいときはその右隣をとるでしょう」
「へぇ。意外に観察しているんですね」
「そうやって人の心を掌握するのも、正妃の務めですもの」
くすくすと笑う声に、オスニエルはげんなりする。なにが正妃だ。人を陥れることばかり考えている女に、どこに正妃の素質などあるというのか。
「分かっているのか? お前は、ジェマ侯爵令嬢と結婚するんだぞ? 正妃は彼女だ」
「いえ。彼女とはまだ婚約もしておりませんし、今後もする気はありません」
「ならん! 正式にしていなくても、彼女は昔からダントツの正妃候補だ。血を重んじるならば、彼女しかありえない」
オスニエルは頭の固い父親を前に途方に暮れる。だが、自分もたしかにそうだったのだ。
血統がなにより大切で、人の中身など見ようとしてこなかった。だからこそ、フィオナの人となりを知る前から彼女を排除することばかり考えていたのだ。
だが彼女は、そんなことは気にせず、周囲の人間と触れあっていった。彼女を好きな人間が周りに集まり、穏やかで幸せな空気に包まれる。
フィオナとならば、この国を中からよくして行ける。それ以上に、正妃にふさわしい私室などないだろう。
「血など関係ありません。フィオナは民のことを考えてくれています。そもそも、父上がフィオナと結婚しろと言ったのでしょうに。父上がなんと言おうと、俺はフィオナを正妃にします」
「こら、待て、オスニエル」
言いたいことを言って、オスニエルは部屋を出た。
これまで、オスニエルは父に逆らったことはなかった。
不満はあっても、直接それを口に出すことはなかったのだ。だが今は、父に逆らってでも、通したいという思いがある。
「変なところで時間を食ったな。ロジャーはどこだ」
きょろきょろと辺りを見ていたら、後宮に続く道で、ジェマと警備の兵が話しているのが見える。
(……妙だな)
ゆっくり近づいてみると、警備の兵は今朝、フィオナの部屋で会ったトラヴィスという男だということが分かった。
ますます気になり、オスニエルは大きな体で中腰になりながら近づいて行った。
「じゃあ、ちゃんと効いたのね」
「ええ。発熱がずっと続いているそうです。……どうやって入れたんです? あんな人の多いところで」
「さりげなく誘導しただけよ。あの令嬢は最初から、あの女と仲ようなるつもりで、飲み物を渡そうと狙っていたから、こちらがおいしそうよって。彼女はいつも、自分用のグラスは必ず左手で取るの。他の人に渡したいときはその右隣をとるでしょう」
「へぇ。意外に観察しているんですね」
「そうやって人の心を掌握するのも、正妃の務めですもの」
くすくすと笑う声に、オスニエルはげんなりする。なにが正妃だ。人を陥れることばかり考えている女に、どこに正妃の素質などあるというのか。