8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
 オスニエルは、フィオナの枕もとに膝たちになっていたトラヴィスに、剣先を向けた。

「お前……、あのときフィオナの部屋に忍び込んできた男だな?」

「これは、オスニエル様」

 トラヴィスはうつろな目で、ゆっくりと立ち上がった。

「なんでこんなところに。あんたはフィオナのことなどどうでもいいんじゃないのか? 正妃を娶るんだろう? ジェマ侯爵令嬢を」

「誰の入れ知恵だか知らないが、ジェマ嬢など娶らない。俺はフィオナを正妃にするつもりだ。お前は、次期正妃を奪いだすという最大の罪を犯したってことだ」

 オスニエルがトラヴィスを睨みつける。彼は、その気迫に気圧された様子だったが、睨み返そうとして、肩を落とす。

「はっ、どちらにしろ、駄目だ。俺はジェマ嬢に騙された。解毒剤を飲ませたのに、フィオナは目を覚まさない」

 ベッドに横たわったフィオナからは、血の気が失われていた。オスニエルはトラヴィスを押しのけ、フィオナの頬に触れた。

「……っ」

 彼女の体は、氷のように冷たかった。触れたオスニエルの手にまで冷気が伝ってくる。

「ジェマ様がフィオナに盛った薬は、発熱ののち、仮死状態になるというものだった。俺は彼女が動けなくなった状態で連れ出し、この解毒薬を飲ませて回復させ、この国を脱出するつもりだったんだ。……だが、フィオナは目覚めない。それどころか、この薬を飲ませた途端、こんなに冷たくなって……」

 トラヴィスが苦悩の声を上げる。
 幽体のフィオナも驚いた。だとすれば今の状態は完全に幽体離脱だろう。もう半分死んでいるようなものだ。
 オスニエルは苦々しく唇を噛みしめる。
 ドルフはとことこと近づき、小瓶のにおいを嗅ぐと、小さく首を振った。トラヴィスがいるからか、聖獣の姿に戻るつもりはなさそうだ。

「はっ、あんな女の言うことを信じた俺が馬鹿だったんだ。……くそっ」

 トラヴィスは壁に立てかけてあった剣を掴み、立ち上がった。

「どこへ行く」

「復讐だ! フィオナを殺したあの女を俺が殺してやる」

「待て! ジェマ嬢の処罰なら俺に任せておけ。それに、お前も共犯だ。許すわけにはいかない!」

「うるせぇ」

 トラヴィスが剣を抜く。オスニエルも、対抗するように剣を構えた。
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