8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
『このままいけば待つのは死だ。俺もお前を体に戻す方法はわからない。今は急速に体温を下げてあるから、体は凍結状態になっているが、体温を戻せば、体には毒が回ってどちらにせよ死ぬ。凍結状態のままでも、結局は動けないのだから死んだも同じだろう。どうする? ここで終わりにしてまたやり直すか? 俺にはそれができるぞ?』
ドルフが、九度目のやり直しを示唆してくる。
次なる新しい人生。今よりももっとうまくやるには……と、フィオナは考えてみた。しかし、何も思いつかない。
『生まれ変わるの……嫌だわ』
『なに?』
『だってこれ以上の人生なんて思いつかないもの』
ドルフと一緒に空を駆けた。ポリーと仲良くなって、たくさんの人と出会った。毎日のようにオスニエルと話し、イライラしたりもしたけれど、彼との距離が近づいていくのはうれしかった。明日はもっと、と願うことができた。こんな日々を、フィオナは八度目の今世でようやくつかんだのだ。
フィオナは動きが止まっているオスニエルを見つめる。
何より、彼がフィオナのことで、こんなに必死になってくれるのが、うれしかった。今のようなオスニエルに出会えることは、きっともうないだろう。フィオナは今のオスニエルが好きなのだ。彼を失うくらいなら、このまま消えてしまった方がずっといい。
『次に生まれ変わっても、私は今を思い出してしまう。八度目の人生が良かった。あの時のオスニエル様に会いたいって。……ねぇドルフ。人は後ろを向いていたらうまく歩けないのよ。今までは、嫌だった人生から抜け出そうと、前だけ見て進んでいけていたわ。でもこれからは、今の人生が良かったのにと常に後ろを見てしまう。そうなったら、何度生まれ変わったとしても、なにもかもが色あせて見えるでしょう』