8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~


 幽体のフィオナは、感極まっていた。あのオスニエルが、自分のためにそこまで言ってくれるなんて。それだけで、もう十分だと思えるほど、幸せな気分だった。
 ドルフは幽体のフィオナのいるあたりをちらりと見ると、ため息を落とした。

『……仕方がないな』

 ドルフのつぶやきと共に、シャリ……と氷の軋むような音がした。かと思ったら、一瞬で周りの動きが止まる。何度か経験しているのでフィオナには分かる。ドルフが時間を止めたのだ。

『聞いていただろう、フィオナ』

 ドルフは、幽体のフィオナをじっと見据える。

『ドルフ、見えてるの?』

『言っただろう。俺はお前に加護の一部を与えた。だから繋がっているのだ。どこにいても変化があればわかる』

 あっさりと言われて、拍子抜けする。だったら、それをオスニエルに教えてあげて欲しかった。そうすれば、彼がここまで焦ることも、危険を顧みず単身で飛び込んでくることもなかったのではないだろうか。

『ここはどこなの? トラヴィスが私を攫ってきたの?』

『そうだな。ここは王都の端にある一軒家だ。……お前が倒れ、侍女が食事に行くためにいなくなった後、トラヴィスが部屋に入ってきて、俺になにか薬を嗅がせやがった。しばらく意識が無くてな。起きてみたらお前の姿も無くなっている。お前の気配を辿って場所を特定したが、お前を起こそうとしているようだったから、様子を見ることにして、その間にオスニエルを連れてきた』

 状況を簡単に説明され、フィオナは倒れているトラヴィスを見つめた。
 彼は、この国から出ることがフィオナの幸せだと信じきっていたのだろうか。何度も、ここにいるのだと伝えたのに。
 話を聞いてもらえない悔しさが、フィオナを襲ってくる。

『まさかトラヴィスがここまでするなんて』

『まあ昔から話の聞かない男だったからな。……さて。お前、今の状況が分かっているか?』

『状況って?』

 ドルフは、フィオナの身に起きている事実を教えてくれた。
 カクテルに入れられた毒のせいで、現在体は仮死状態にある。だが、解毒薬だと渡されたものは別の毒で、フィオナの体はその毒による死を待つ身になっているのだそうだ。体が氷のように冷たくなっているのは、ドルフの加護のおかげで、口に含まされた毒が体に回るのを抑えているのだという。

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