8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
 途端、ドルフのセリフが意識されて、フィオナは真っ赤になる。

「……入るぞ」

 おずおずとそういうオスニエルもまた、耳が赤い。ドキドキが伝播してくるようで、心が少しも落ち着かない。

「体調はどうだ」

「もう平気です。ありがとうございます」

 世間話をしながら、オスニエルはチラチラとドルフに視線を送る。

『俺は散歩に行ってくる。だがオスニエル、フィオナが本気で嫌だと思えば、氷塊が飛んでくることを忘れるなよ』

「分かっている!」

 いつの間にか、オスニエルがドルフのことを普通に受け入れていることに、少し微笑ましい気持ちになる。

「フィオナ。改めてお前に言っておくことがある」

「は、はいっ」

 視線が、テーブルの端から、じわりじわりとフィオナにうつる。膝を、手を、肩を、順にめぐるようにオスニエルの視線が上を向く。目と目が合って、彼の気持ちが伝わってくる。ドンドン高まってくる心音に、フィオナは苦しいくらいだ。

「俺は、お前を愛している。どうか正妃になってほしい」

「……わ、私でよろしいのですか」

「フィオナがいい」

 彼の手が伸びる。指先に触れ、そのまま甲を撫でられる。固い皮膚が滑るだけで、なぜだか官能的な気分になった。何故だか視界が潤んでくる。幸せって泣きたくなるんだと、フィオナは不思議に思った。

「オスニエル様」

 喉が渇く。そう感じて、小さく唇を開くと、彼の精悍な顔が近づいてきた。
 唇がゆっくりと触れる。フィオナの唇は渇いていて、潤った彼の唇に触れると、尖った心が柔らかくなっていく気がした。

(ああ、私。これが欲しかったんだわ)

 安心して目を閉じると、オスニエルの唇は、フィオナの渇きを潤すように、余すところなく触れてきた。唇、舌、頬。やがて顔中に堕とされたキスは、鎖骨の方にも下りてきた。

「嫌じゃないようでホッとした」

「そんなこと言わないでください」

 恥ずかしさに顔が赤らむ。だけど、キスをねだる表情は止められない。
< 152 / 158 >

この作品をシェア

pagetop