8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
「隊長、首尾よく終わりました。馬車は細い山道へと誘導しましたので、あとは自ら制御を失うでしょう」
「馬鹿、しっ」
「え?」
馬に乗った男は、隊長と呼ばれた男の視線を追い、ドルフを抱きしめたフィオナに気づく。
「隊長、こちらのお嬢さんは?」
「黙れ。こちらはフィオナ姫だ」
「……は?」
若い男は一瞬で蒼白になり、馬を降りて直立した。
「フィオナ姫? ……どうして」
「どうして……とは? 私が今日ここに来るのは、最初からのお約束だったと思うのですが」
フィオナは汚れた服の裾を払い、にっこりと微笑んだ。小娘の笑顔なのだが、凄みがあったのか、男は「ひっ」と小さな悲鳴を漏らす。
「失礼、フィオナ姫。驚いたのですよ。姫君が歩いていらっしゃるなんて思わないでしょう?」
隊長が引き取り、笑顔を向ける。
「まあ、そうかしら。あなた方の行動を振り返れば、そんな可能性も考えられるのではないかと思いますけど」
あくまでにっこりと、フィオナは脅しをかける。襲ったのがお前たちだと知っているぞ、と、意味深なまなざしを兵士たちに送り続ける。
兵士はますます顔を青くして、隊長への救いを求めた。隊長はゴホンと咳払いすると、気を取り直したように笑顔になる。
「とにかく、ご無事で何よりです。フィオナ姫。どうぞ我らの馬車にお乗りください」
「ええ。ですが、私の護衛の安否が気になります。それに、輿入れ道具も置き捨てられているはずだわ。それを捜していただかないと困ります。ああでも、許可がなければあなた方は入国できませんわね」
「そうですね」
「事情は私が説明したほうが早いでしょう。許可を出すので、一番近いインデスの街まで連れて行ってください」
隊長も男も困ったように顔を見合わせていたが、逆らえないと思ったのか諦めたようにフィオナを馬車にのせ、移動を始めた。