8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
 部屋の扉がノックされ、フィオナ付きの侍女が、ドルフの水桶を手に戻ってくる。

「姫様、護衛騎士のおふたりがいらしています」

 来たか、とフィオナは思い、平静を装う。

「……中に入ってもらって。あなたはお茶を入れてきてちょうだい」

 フィオナがそう返すと、侍女はふたりを招き入れ、ドルフへ水桶を与えた後、お湯をとりに出ていった。
 かわりに入ってきたのは、現在フィオナの護衛騎士を勤めているローランドとトラヴィスだ。

 ローランドは輝く金髪に深い緑の目を持った爽やかな美男子だ。真面目で実直な彼は、真に迫った表情でフィオナを見つめている。隣に立つトラヴィスは襟足が伸びた栗色の髪に、琥珀の瞳を持つ。粗野な風貌からも分かる通り、礼節をわきまえた人間ではなく、いまだに子供の頃のようにフィオナのことを名前で呼ぶこともある。

「フィオナ」

「フィオナ様」

 ふたりの声に、フィオナはゆっくり目を閉じる。

「姫、此度の政略結婚、本当に受けるおつもりですか?」

 ローランドが神妙な顔で問いかける。彼は宰相の息子で、騎士でありながら文官としての能力値も高い。フィオナも一番頼りにしている。

「ええ」

 フィオナが頷くと、ローランドは悔しそうにうつむく。

「では私を、護衛騎士としてお連れください。なにがあっても、姫をお守りいたします」

 いつかも聞いたセリフだ。あの時は、この言葉が心強いと思ったし、安心もした。

「待てよ、ローランド。みすみすフィオナをあんな国に嫁がせるつもりか? フィオナ。こんな国、捨てて俺と旅に出ようぜ」

 トラヴィスが、ローランドを押しのけるようにしてそう言う。トラヴィスは騎士団長の息子で、物言いが荒っぽいが兄貴肌で面倒見がいい。過去、ルングレン山に探検に行こうと誘ったのも彼だ。面倒事も引き起こすが、悪気はなく、気がいいのでフィオナは兄のように思っていた。
 彼のこの言葉に頷いたのは確か四度目の人生だったか。あの時は、愛してくれるなら応えたいと思っていた。
 だけど、結果が見えている今、フィオナは頷くわけにはいかなかった。
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