図書室は正しく使いましょう! ~文学少女と不貞男子は恋に堕ちません?~

図書室



「ちょっと、スグル、あんたの兄さん酷すぎない?」

「兄貴は昔からあんな感じだよ。女好きのクズ。顔は良いから女の子も寄ってくるし」

スグルは遠くを見て目を細める。

「俺はいつも、〈至くんの弟くん〉で、誰も俺を見ていない。今日だって何人かにそれが理由で声かけられたし……男も女も」

「男の子も? ホモ?」

「ば、バカ! あいつ、ケンカもするから、そーゆー不良的な奴らにも一目置かれてるっていうか目をつけられてるってか……とにかく、あいつには関わらない方が吉だぜ?」

スグルは私を見つめてそう言う。
スグルもなかなかのイケメンさんだと思うけど、それでも皆んな、お兄さんお兄さんって、なっちゃうのかな?

「でも、私は先に、スグルを知ったから、至って奴がスグルの〈お兄さん〉だよ」

「カオル……やっぱ、お前、変なやつだな」

「ほえ?」

思わず変な声が出てしまう。
なんで、私が変人扱いなのよ。
私なんて、いたってノーマルでつまらない人間だと思うんだけど。

「フツー兄貴見たら、皆んな兄貴の方に靡くんだけどなぁ……お前、いい奴だな?」

「ありがとう? で良いのかしら」

スグルと駅へ向かう道を並んで歩く。
はじめは、私が車道側を歩いてたんだけどぐいって歩道側に変えてくれた。
さりげなく、でも、強引に。
腕を引く力が強かった。痛くはないけど、力強くて男の子だなって改めて思った。

並んで歩くと、スグルはなかなか大きい。
私が、かなり小さめだから余計にそう感じるのかな。

「そーなの? あ、ねぇねぇ、スグルは今日暇なの?」

「なんで?」

「良かったら帰りに駅前の書店に付き合ってくれない? がっこの最寄り駅にある大きな書店、楽しいんだ!」

「既に行っているという」

そりゃもちろん! 書店があったら入るでしょ。本好きなら。時間が許すなら、出先で見つけた書店は入っちゃうよ。気になるもん。

「学校見学のたんびに行ってたよー! 何冊か買わせても貰っているし。楽しいよ!」

「ふーん。ブックカフェ的なやつ?」

「お、よく知ってるね。そう。スタバが入ってるの」

「駅に広告あったなって」

「スタバ好き?」

「珈琲なら飲める。甘いのは飲めない」

なるほど。
確かに、甘々が多いものね。

たまにカフェ系で甘くないのもあるけど、殆どが甘い。
私は甘党なので、いつもホイップ増し増しのチョコレートソースやキャラメルソース追加やら何やらのめちゃ甘〜いの作ってもらってる。
最寄りのスタバのおねーさんとはなかなか仲良しで、お互いにおすすめのアレンジレシピを紹介し合ったりする仲。

「スグルは本読むの? あ、そういえば、あいつの名前、色んな本にあったな……」

スグルは悪くないんだけど、スグル兄の事を思い出して腹が立ってきた。

「あいつ、性格に似合わなず読書家だよ。部屋にも大きな本棚があって、色々な本が置いてある。難しそうな英語の本やフランス語? の本とかもあったよ。俺は小説は人並みだけど、漫画は読む方かな。アニメも好き」

「なるほどー! 私は小説も漫画もアニメも全部! エンタメ作品大好き!」

小説から入って、漫画化、アニメ化を、観て、違いをああだこうだ言ったり、ここはすごい忠実! 逆に何故、このシーンを削った! と憤慨する事もあるし。

小説などの作品と触れ合ってる間、私は1人じゃない。
主人公と、登場人物と、一緒に泣いて、笑って、戦って、いつだって、彼らと一緒に歩いているんだ。
でも、本を閉じるとそれは幻覚だと思い出す。
私と彼らが一緒にいられるのは紙面の中だけ。
実際には話す事も無いし、会う事も無い。声も知らない。触れ合う事もできない。
話したいし、会いたいし、声を聞きたいけど、触れ合いたいけど、全て、叶わない。
でも、それは、仕方のない事で、作者さんのお陰で私達は彼らと出会う事ができたわけだから作り手様には感謝しかない。
そして、彼らも香りを纏っている。
本からも、香りはする。
作り手様たちの、思い、
それは、著者だけでなく、編集や校閲、製本や搬送、品出し、レジ……プレゼントだったらくれた人の想いとか。

まぁ、著者さんの香りは残るけど、何故か、編集さん達の香りは途中で消えるんだよね。
きっと、著者さんのは名前から、文章から、タイトルから、それらの文字から香ってるんだと思う。
文字が、生きてるから、香り続けるんだ。
人が生きてるから香る様に。

「おい、赤信号だって」

ふわりと優しい、人を守ろうとする香り。

「ふぎゃっ」

スグルに腕を掴まれた。
危うく、信号無視をするところだった私を寸止めしてくれた。
手首は掴まれたまま。
少し恥ずかしいけど、なんだか、くすぐったくて、甘い香りがする。

「あ、ありがとう……」

「お前の言う本屋ってそこだろ? あぶねぇな。本屋行く前に信じまうぞ」

「それは、良くない。ぱぱとままに叱られる」

「カオル……」

しまった。
私的にはジョークなんだけど、同級生からしたらなかなか申し訳ない気持ちになるよな。

「ごめんごめん! 大丈夫! お礼に珈琲奢るよ。行こう」

信号は青に変わった。
スグルの腕を解き、今度は、私が引っ張る。

スグル兄は気に入らないけど、楽しい高校生活になりそうだ!
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