FUZZY




好きな人が手の届くところにいて触れないとか無理じゃない?少なくとも俺は理乃さんに触りたくて仕方がない。

斜め前に座る理乃さんはチーズと生ハムをぱくぱくと口に運んでは酎ハイで流し込んでいる。その姿がかわいくて思わず彼女の唇にキスを落とした。

アーモンドのように綺麗な弧を描く二重の目がさらに大きくなった気がする。一回では終わらす気はなくて、もう一回、さらにもう一回と重ねていけば次第に腕が首に回る、はずだった。


「だ、だめ!」


何度目かの触れるだけのキスを終えた瞬間、ぐっと胸を押される。え、だめ?だめ、とは?


「キス、やだった?」

「……ううん、やだ、じゃないけど」

「けど?」

「もう碧生くんとは触れ合っちゃいけないって今決めたの!ごめん!」

「……は、」


さすがに拍子抜け。

えっと、ごめん。ぜんぜん展開が見えてこないんだけどなんで今決めんのさ。俺、置いてけぼりじゃん。


「説明、できる?」

「せつめい、せつめいね、」


お酒も入ってるしただの気まぐれであってほしい。いや、気まぐれだとしてもこんな切ないのはいらないよ。


< 66 / 130 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop