若女将の見初められ婚

コーヒーがサーブされたところで、しの君が話し始めた。

「今回の話の概要は聞いてる?」

話が本題に入ったので、ホッとする。姿勢を伸ばして返答した。

「はい。『いわくら』さんとの業務提携のお話。本当にありがたいと思ってます。資金援助もしていただけるそうで、夢みたいなお話です。

私もお店を閉めなくて済む方法を考えてみたんですが、できることなんてなくて」

不甲斐なさに下を向いてしまう。
本当に今回のことで、自分がいかにちっぽけな存在なのかを思い知った。

大きな呉服屋さんに後ろ楯になってもらえることが、どんなにありがたいか。「たちばな」を代表して、心から御礼を言いたい。

「今の時代、和装関連の物を扱う店が単体で頑張るのには限界があると思う。

共通点のある店同士、横の繋がりで協力するんはいいことや」

お店の話になると、仕事用の顔になるのか、優しげな顔からキリッとした顔に切り替わった。

そんな表情にもドキドキする。

「それに、こちらの要望に合わせて髪飾りを作ってくれる職人さんをちょうど探してた。

映画やドラマの撮影に使う小物を作るには、相手側の細かい要望に応えられる技術が必要や。腕のいい橘さんの力を借してもらえてありがたい。だからWin-Winやで」

そんな風に言ってもらえて、心から安心した。

でも……

「父のお店に関しては本当にありがたいと思ってるんですが…」

一番大事な話をしなければならないので、緊張して最後は小声になってしまう。

しの君はそんな私を見て微笑んだ。


「それに加えて、志乃ちゃんと結婚させてほしいっていうのが訳わからんって?」

「訳わからんと言うか。そんなことして仁さんに何かメリットがあるんかなって不思議に思ってます」

一番気にかかっていたことだ。
今回の話は、うちに取ってありがたすぎる話だが、私との結婚を望まれる意図がわからなかった。

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