若女将の見初められ婚
「今回、店の話に絡めて結婚の話を持ち出したりして、卑怯なことしたよな。悪かった」
スッと頭を下げる。
どうしても一回会ってみたかったからと、しの君は苦笑いした。
「志乃ちゃんと結婚したら、親族経営という形が取れるから仕事もしやすいと思ったのは本当や。
でも、結婚の話を受けてもらわれへんかっても、『たちばな』のことは任せて欲しい。そこは気にせんでいいから」
真剣な眼差しでこちらを見る。
私と結婚したいというのは、本当のことなんだろうか…
こんなに素敵な人ならば、結婚相手なんて選び放題だろうに。
しばらく考えてから、探るように聞く。
「ほんまに私でいいんですか?仁さん、すごく素敵な人やし、私なんてこんなに子どもやのに…」
「志乃ちゃんがよければ、結婚の話も進めさせてほしい。俺の方こそ、こんなおじさんやから申し訳ないけど」
私の問いかけに答えながら、しの君は恥ずかしそうに頭を掻いた。
しの君の照れた笑い顔、ほんまに素敵やなぁ。ぼーっと見惚れる。
ふと、しの君と「いわくら」で一緒に働く自分の姿が想像できた。
「ゆっくり考えてくれたらいい。別に急ぐ話やないしな」
この縁談を断ると、「たちばな」は失くなってしまう。
しの君は、店のことと結婚の話は別だと言ってくれるが、父は私が断るなら、お店の援助も断ると言っていたのだから。
でも、そのこととは別に「いわくら」の女将として生きる道も楽しいのではないだろうか。
何よりも目の前の岩倉仁という人が、とても魅力的だった。
これは本当にいいお話かも。
そう思った時には、もう返事をしていた。
「あの、仁さんがよければ、ぜひともよろしくお願いします!」
自分でもびっくりな展開だが、迷う点がどこにもなかった。
「ほんまにええの?よう考えた?」
しの君が慌てたように問う。
「はい!お店と私の両方ともお世話をかけてしまいますが、私、がんばって着物のこと勉強しますので!」
「そんなこと頑張らんでいい。
志乃ちゃんは『いわくら』に嫁ぐんやなくて、俺に嫁いでくるんや。
無理する必要ないからな」
まるで大事なものを慈しむような眼差しで、優しく微笑んでくれた。
じーんと胸が温かくなる。
優しい人やなぁ。
この人とやったらうまくやっていける。
何か確信のようなものが感じられた。