若女将の見初められ婚
そこからは、和やかに話が弾んだ。
「たちばな」のこと、私自身のこと、話すことはたくさんあったが、旦那さんも女将さんも、とても優しく聞いてくださるので、緊張することなく話すことができた。
「『たちばな』さんとの業務提携のことは、志乃ちゃんが心配することは何もないで。仁が勝手にすることや。
最初少しばかり資金提供するらしいが、『たちばな』さんの経営が落ち着いたら、少しずつ返してもらうことになってると聞いてる。
だから、どっちが上でどっちが下ということはない。
志乃ちゃんが気に病むことは何もないからな」
旦那さんが柔らかな声で話してくれた。
「ありがとうございます」
旦那さんに対しての緊張が溶けてゆくのがわかる。さすが大店の旦那さん、懐がとても大きい。こんな方がお義父様になることが嬉しい。
「今は、大学の事務をしてるそうやな?結婚しても続けてもらってかまへんで」
そのことについては、気持ちが決まっている。旦那さんの目を真っ直ぐに見て伝えたい。
「私は『いわくら』で働いて、女将の修行をさせていただきたいと思ってます。
せっかく縁あって『いわくら』に嫁がせてもらうんですから、女将さんの後を継いでいけるように頑張っていきたいです」
「そうか」
答えてくれる声が温かい。
旦那さんの許可が出ないと、お店で働くことはできない。ニコニコと頷いてくれているということは、私の熱意が伝わったということだろうか。
「志乃ちゃん、無理せんでええんやで。前にも言うたけど、『いわくら』に嫁ぐんやなくて、俺に嫁いできてもらうんやから」
しの君は、真面目な顔で心配してくれた。
それに対して、微笑みながら首を横に振って見せる。
「本当に無理してないんです。
私、着物好きやし、父の髪飾りもたくさんの人に知ってもらいたい。
そのためにも『いわくら』で着物のことや装飾品のこと、もっと勉強したいんです。
大学を辞めるのは少し寂しい気もしますが、それより新しいことに挑戦できるっていうワクワクの方が大きくて」
これが私の本心だ。
結婚自体が大きなチャレンジだが、仕事も新たにチャレンジしたい。
今が人生の曲がり角なんだと思う。
「志乃ちゃん…。なんていい子なんや」
女将さんを見ると、さめざめと泣いていてギョッとする。
私、そんな感動的なこと言った?
女将さんは、感情の起伏が激しいらしい。
「よし、わかった!ありがたく志乃ちゃんの申し出を受けさせてもらう。これから一緒に頑張っていこう」
旦那さんからお許しが出た。
「よろしくお願いいたします!」
ホッとして胸を撫で下ろした。