若女将の見初められ婚
それにしても、一体何の話?
お店の話が始まらないので、そわそわする。
こんな時に「いわくら」の話を聞かされるなんて、どういうこと?
訝しげに見る私を、父は『まあ聞け』と言うように目で制し、話し続ける。
「ちょっと前に、うちの店を閉める話を『いわくら』の旦那さんにしたんや。あそこにはお世話になってるからな。
そしたら、今日、仁君から連絡がきた。『たちばな』と『いわくら』で業務提携せえへんかってな」
「業務提携?!」
思わず声が裏返る。
謎だった「いわくら」の話が、突然うちの店の話に繋がった。しかも、ものすごく意外な形で。
「わしの職人としての腕を買ってくれた。失くすのは惜しいと。
映画やテレビの衣装協力では、着物に合わせる小物も一緒に提供するそうや。
小道具として使われる髪飾りには、細かい注文がつけられる。その注文に合わせた髪飾りを作ってくれへんかと言ってくれた。
そしたら、店は形を残していける。売上があまりなくても、仁君の仕事を請け負うことで何とかやっていけるからな。
志乃には言うてなかったけど、今、少し借金がある。とりあえずそれは肩代わりしてくれるって言うてくれた。
ゼロから一緒にスタートしようと。ほんまにありがたい話や…」
静かに語る父は、普段滅多に表情を表さないが、今は微かに喜んでいるのがわかる。口数が少ない人なので、こんなに話しているところも初めて見た。
父の姿を見ているだけで胸が詰まる。
「ほんまにありがたい話やん。よかった…。話、受けるんやんな?」
思った以上に声が震えてしまう。
あかん、泣きそう。