LOVEPAIN⑥
「別に、てめぇとヤろうと思ってこの車借りて来たわけじゃねぇけど」


睨んでいるのか分からないけど、
篤は横目で私を見る。


暗闇の中、至近距離で篤と目が合い、
もう死ぬんじゃないかってくらいに、心臓がドキドキとしている。


篤は、そっと左手で私の右手を握った。


突然の事で、私は驚いて、
その繋がれた手に視線を向ける。


「わざわざこんな山の中迄迎えに来てやったんだ、
手ぐらい握らせろ」


その言葉に篤の顔に再び視線を戻すが、
視線が合う前に、篤は私から視線を反らした。


篤の手はお酒のせいなのかとても暖かくて、
そのぬくもりに涙が出そうになった。


あの夜も、私は篤と一晩中手を繋いでいた。


あの時も、篤の手はとても暖かかった。



今やっと、何故私は篤が好きなのか分かった。


今も成瀬が好きだからナツキを好きになれなかった私なのに、
なんで篤を好きになったのか。


手ぐらい、と言った篤は、
もうこれ以上私に何かをする事はないだろう。


今、妙な空気になっていたから、
篤から先にそう言ってくれたのかは分からないけど。


あの一晩中篤の部屋で過ごした夜もそうだけど、
花子の事で篤の部屋で会う事があっても。


篤は、私に何もしない。


こんな仕事をしているからか、
関係を持った男性達がそんなのばかりだからか。


私は心底、男性のそう言った欲望にうんざりしているのかもしれない。


そういう事一切なしで、私を見てくれるから、
私はこの人を好きになったのだろう。


もしかしたら、それだけではないのかもしれないけど。


< 405 / 501 >

この作品をシェア

pagetop