ツキミチカフェにようこそ
 渡されたロッカーの鍵を持ち、二階へと登る。飴色の手すりに真ん中がすり減った階段は、愛されて大切に手入れされてきたのを感じさせる。「クラシカル風」に作ったのではなくて本当に歴史があるのかも、と思った。

 四番のロッカーを開けると白シャツにブルーデニム、黒いカフェエプロンがハンガーにかかっていた。高田さんと同じか。
 デイバッグを突っ込み、急いで着替えて下に行くと、高田さんが長い髪を一つに結んで、カフェエプロンをしていた。

「佐島さん、シェフとパティシエ紹介します」
 高田さんがキッチンに声をかけた。ひょい、と顔を出してきたのは髪を金髪に染めた男性だった。
「彼はパティシェの利津(りつ)くん。デザートとスイーツ系ドリンクの開発担当です」
「佐島です、よろしくお願いします」
「どうも。利津です」
 ぶっきらぼうな挨拶とは裏腹に、深々と頭を下げられてボクも慌てて頭を下げた。
樹生(みきお)は?」
「オーナーの庭にハーブ取りに行ってる」

 高田さんはまたちらりと腕時計を確認した。そういや、腕時計してる人って、ボクの周りでは見たことがないな。
「そしてら、もう時間ないからシェフには後ほど紹介します。取り敢えずタブレットの使い方など接客に関することを説明しますね」

 高田さんはボクをレジに連れて行った。歩きながら店の広さを体感覚で掴む。四人がけのテーブルが四つにカウンターは六席。テラスでも食事が取れるみたいだし、見えてる範囲ではテーブルが三つある。
 シェフ一人、パティシェ一人、接客は高田さんとボク。広さに対して若干手が足りない気もするけど、三時からの予約っていうのは一体何人なんだろう。

 ボクはすっかり、杏と喧嘩したことを忘れていた。
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