諦 念

▪▪父より 真澄


私の実家は酒蔵をやっていて
父は、何十代目かの蔵主。

職人さんにも厳しいが
自分にはもっと厳しい人だ。

そんな父を回りの人達は
全幅の信頼をしている。

私には弟がいて
弟が父の後を継ぐ

私も厳しく育てられた
そのためか、家から離れた大学時代から
私は、自由な世界を満喫していた。

付き合った人もいる
だが、一瀬 光輝君
彼は、今までの中でピカイチで
どうしても彼が欲しいと思った。
歩の悪い告白もした。
だが、一度や二度ふられても
諦める気持ちはなかった。

彼が選んだのは、
女性の中でもナンバーワンの
三瀬 栞那ちゃん。
彼女は、綺麗でスタイルも良くて
仕事もできる。
狙っている人は多かったが
一瀬君では······と。

私は、一度あっさりと引いて
頑張ってね、と声をかけた。
話しやすいように·····

それからは、たまに会えば
声をかけたりしていた。

そんな中で
三瀬さんは、社内でも有名な
十川さんと一緒にいることが多い。

美男美女よね。
お似合いよね。
太刀打ちできない。等々、聞こえてくる。

なんなの?なんで?
あなたは、一瀬君の彼女よね?
受付にいる度に、聞こえてくる話し
目の当たりにする二人の姿

ランチに行った時も
三瀬さんと十川さん、数名が
楽しげに話しながら
食事をしている。

その写真を撮る

みれば、二人で食事をしているように
見えて····私はニヤリと笑ってしまう。

それからは、見つけたら撮る。
それを一瀬君に見せる
あなたを諦めたのに
幸せなって欲しいのに、の言葉と共に。

段々と、顔がかわってくる
一瀬君を慰めたり、話を聞いてあげたり
して過ごす。

彼の前では心配な顔をしながら
お腹の中では、もうすぐ、もうすぐで
彼は、私の優しさや癒しに
気づくはず·····だと······

一瀬君、いや、光輝から
一緒に神戸へ行こうと
両家への挨拶は電話で済ました。

私のお腹には光輝の赤ちゃんが
いることから式は落ち着いてから
と、なった。

好き····だとか
愛している····とかはないが
それでも、私は⋅⋅⋅⋅⋅幸せだった。

そんな時に······今回の話しで·····

父から直ぐに帰って来なさい
の言葉に光輝と話す余裕などなく
私は、電車に乗り込む
心臓がバクバクと落ち着かない。

駅に着くと弟が難しい顔で
待っていて
「ありがとう。」
と、言ったが
「ああ。」
と、だけ。

家につくとお母さんが出迎えてくれて
お腹を心配しながら
父のいる部屋へと一緒に行く

そこに座る父のオーラに息をのみながら
「ごめんなさい。」
と、言うと
「俺の育て方が間違っていたんだな。
お前は、今日、あの人に
お前が傷つけた三瀬さんに
一度も謝罪の言葉をしなかった。

情けないを通り越して
飽きれるしかなかった。
人を巻き込んで
傷つけて、平然としている
お前に。
本当に私の娘かと、さえ思ってしまった。
一瀬さんとは話をするが。
お前は、明日、北海道へ行きなさい。
紀代(母の名)の実家がある
誰も住んではいないが
管理の方が綺麗にしてくれているから
生活はできる。
そこで、友人も知人もいない中で
暮らして出産、子育てをしなさい。

北海道から出ることは許されない。

こんな事で、三瀬さんに対して
償うことなどできないのは
わかっているが。
警察にも弁護士の方にも
住まいは連絡をする。

一瀬君とは、離婚をして貰う
それは、全てはこちらですませる。
一瀬さんからは、慰謝料とかは
貰わない。
子供の養育費については
一瀬さんと話をする。
後の支払いについては
また、連絡をする。」
と、言った。
そんな···と、口を開こうとするが
母に窘められ黙るしかなかった。

母が作った食事を取り
自分の部屋へと入る
私の部屋は、綺麗にされていた。
お風呂に入るように
母に言われて入り
ベッドに横になる

そんなに悪いことをしたのだろうか?
三瀬さんだって二股していた
のではないだろうか?
この子の父親は⋅⋅⋅⋅⋅⋅いない⋅⋅⋅⋅⋅⋅と
言うことなんだろうか?

私は、自分の浅はかな考えも
幼稚な想いも
わからないほどになっていた。

今後の生活で
やっと、わかる·····ことに。
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