諦 念

▪▪話し


光輝は、
「あの時は、本当に辛い、苦しい
思いをさせてしまい、済まなかった。」
と、頭を下げる。
「もういいよ。
あの時は、この時は、と言っても
あの時には、もう戻らないし。
お互いに前に向けて進んでいるのだから。
でも、あれからずっと向こうに?」
と、訊ねると
「きちんと謝罪できてない事が
ずっと気になっていて。
これもまた、自分の自己満足なんだけど。

全てが片付いてから出国して
ずっとドイツにいる。
建築の仕事も好きだけど
小さい時から親父の作る家具を見て
来たからか、興味があって。」
「そうなんだ。
でも、あの時に謝罪の言葉を
言われても耳に入って
来なかったと思う。
全てに否定的になっていたから。
でも、謝罪受け取りました。
ありがとう。
あちらで、沢山、苦労したのでしょう?
でも、凄いね。
椅子も机も、素晴らしいよ。
びっくりした、光輝の中に
こんな部分もあったんだと。」
「ありがとう。
本当にありがとう。
いつか、必ず、直接に謝りたいと
思っていたから。
ドイツで何ができるか
色んなものを見て回ったんだ
建造物も素晴らしい国だから
そんな中で一人の職人さんの
作品?作風?を見て、体がふるえたんだ。
凄い、と言うか
素晴らしい、と言うか
美しい、と言うか
なんとも言葉で表現できないが。
お願いして弟子にしてもらったけど
とても厳しい方で
三ヶ月で、師匠が認める物が
出来なければ諦めなさいと
だから、必死に作ったよ。
工具の使い方もわからないから
コツコツ手作業で作ったよ。
寝るのも食べるのも
最小限にして。
デザインを決めて
材料は、どれでも使えばよいと
言われていたから」
と、言いながら取り出した物は
写真で、それを見せてくれた
赤茶けた椅子で
背もたれの左右の高さが違い
足の一本、一本も違っていた
彫刻刀で作ったと。

一言に、凄い!

それからは、手掛けた商品を
見せてもらった。

本当に、素晴らしい!

「お父さんにみせたの?」
と、訊ねると
「毎回、送っているが
なにもない。」
と、寂しそうに言った。

あれから、一度も両親と
あっていないと。
だから、実家にも帰ってない、と。
それだけの事をしたのだと
改めてわかったと。

お子さんにも彼女にも
一度もあっていないらしい。

子供には、養育費は支払っているけど
正直、実感もないんだ
と、言った。

私の事で、子供には
なんの罪もないのに
お父さんのいない子に
なっているんだ
と、思っていると。

「栞那が、気にする必要なない。
田中の事も、子供の事も
俺と田中がいけないのだから。
それに、子供性別も名前も
知らないんだ。
養育費も田中のお父さんに
支払っていて
田中とは、あの日から一度も
あってもないし、会話もない。
それが、俺には良かったと。
もし、あったら、話したら
自分を差し置いて
言葉の限り、罵り罵倒したかもと。
合えなければ、それさえもないから。
栞那は、なにも悪くないし
俺達の事を考えたり
悩む必要は、まったくないから。」
と、言われて
「だからか、子供に合いたいとか
情?とか無いんだ。」
と、付け加えて光輝は、言った。

それからも少し話しながら
軽く食べた。
光輝は、明日再度会社に顔を出してから
ドイツに戻るらしい。

次に来るのは、机と椅子の納品だと
話してからカフェを後にした。


私と光輝が
一緒にいる姿を朝陽さんが見ていた
とは······
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