きっと100年先も残る恋
だけど、本人はネガティブだった。
軽自動車のCMで初めてセリフ「いいじゃん」を貰ったのに、なかなか決まらず20テイクも撮り直したらしい。

「絶対俳優向いてない」

私の狭い部屋に帰ってくるなり、落ち込んだ様子でテーブルに突っ伏した。

「あー」と嘆く背中を「大丈夫だよ」とポンポンするけど、突っ伏された猫背はなかなか起き上がらない。

「俺、就活しようかな」
「就活?」

雄介の口から予想外の言葉が出る。

「胃が痛い」

雄介にしか分からない悩みに、なんて声をかけていいか分からない。

今まで勉強もモデル業もそつなくこなしてきたからこそ、初めて大きな壁にぶつかっているのかもしれない。

雄介に学園ドラマのクラスメイト役のオファーが来ていることも知っている。
その答えをずっと先延ばしにしていることも。

そしてその学園ドラマは、他のモデル仲間がオーディションを受けて落ちたものでもある。

みんなが必死に仕事を求めても入ってこないのに、なぜか雄介には舞い込んでくる。
そんな贅沢な状況を嘆くことも最近増えた。

オーディションを受けるように事務所から言われてても応募すらしない。
受けるのも、落とされるのも、そして受かることも、怖がっているように見える。

「七光りだよ」と雄介は自分のことを笑う。
全く実力が備わってないのに、話題性だけが先走ってることを痛感しているから出てくる言葉だった。

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