きっと100年先も残る恋
「俺が今の仕事辞めたら、英子と普通に過ごせるよね」

突然突拍子もなくそんなことを言ってきた。
覇気のない低い声。

「そんなこと言わないでよ」
「俺はずっと考えてたよ」

低音の声が部屋の空気をシンと冷やす。

「俺たちの着地点をずっと模索してんのに、離れてってる気がする」

宙ぶらりんにふわふわと浮き続ける私たち。
たしかに降り場所を見失ってる。
去年の春から、コソコソと隠れるようになった時から、少しずつ風に流されるように迷子になってしまった。

「一緒に住んでても、何しても、俺がこんな仕事してたら未来が見えないじゃん」

閉ざされた空間で隠れて生活をする。
それが当たり前だったけど、全然当たり前なんかじゃない。

「公園のベンチに座って話すことも許されてないんだよ?」

そう吐き捨てる雄介の背中をさする。
誰も悪くない。

「一年前の、あの時」と思い出したように静かに続けた。

「英子泣いたことあった」

いつのことだろう。

「生理前だって言い張ってたけど、違うよね」

生理前で泣きたくなることは山ほどあるけど。

雄介がジッと私の目を覗く。
その目がどうしようもなく悲しい。

「多分今、あの時の英子の気持ちが分かる気がする」

本当に泣きそうな目。
雄介は笑ってそう言うと、全体重を押しつけてくるような重い重いハグをしてきた。

私は何一つ気の利いたことも言えないまま、ただ雄介の体重を受け止める。

時間を戻すことができたら、違う選択肢をしてたんだろうか。
あのまま目立たない専属モデルを少しやって、誰にも知られずに一般人に戻ってたんだろうか。

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