きっと100年先も残る恋
「春から一緒に住むんだって、あのマンションで」
「そっか」

私はやっとそれだけを言う。

「どうしよう、そんな家に帰りたくないんだけど」

雄介が情けなく笑う。

「俺の家、本当にここしかないわ」

それ以上雄介の言葉を聞けなくなった私は、正面に回って雄介を抱きしめる。
雄介も私の体に手を回す。

「ごめん、こんなにかっこ悪い人間で」
「大丈夫だよ」

このままこの小さな家で暮らしていけばいい。
雄介も私も、普通に就職して、普通に生きて、ずっと一緒にいればいい。

雄介は細々とモデル業を続けながら、最近は編集部に入り浸って裏方の仕事もしてる。
表に出ない生活の方が向いているのかもしれない。

私たちはいつかそうやって透明の体になって、誰にも何も言われない二人になれる。

ちゃんと上手く生きていける。

「大丈夫だよ」

私は雄介の頭を抱きしめた。

22歳の雄介と21歳の私は、まだ大人になり切れないし、世の中もまだ知らないし、自分たちだけで生きていけるわけでもないけど、本気でそう思った。
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