ひと雫ふた葉 ーprimroseー
左手を見れば数珠が映る。
「それ、って」
「あ、ああ、これか? これは兄貴のおさがりや」
なにかと思えばそんなことかいな。変に意識したんが恥ずかしいわ。
柴樹は「少し触らせて」と言い出した。
────まぁ、減るもんじゃなし。
そう思って数珠を手渡す。
「うわぁ。ほんまに秀兄のや……なんか、なんかこうして見ると、あれやな……」
言葉を途切れさせ、また俯く柴樹に「なんや」と先をせかす。
もったいぶらんとはよ言えって……。
「……ほんまに、宗兄が秀兄の跡継いだんやなって」
その顔は誇らしそうな、嬉しそうな、なんだかこっちがむずがゆくなるような表情をしていた。
にしてもコイツ、オレが謝ったんは完全に無視かいな……!
それに対して突っ込もうかどうか迷っていると柴樹の方が先に口を開く。
「あ、そうや。そしたら宗兄、もう出家したってことやねんな」
「なんや、いまさら」
「もう宗兄ちゃうよな、思て」
確かにオレは柴樹御付きの浄霊師になると同時に出家し、名前の読みが変わった。
でもそんなん、別に気にせんで……──。
「宗徳、やから徳兄や」
「お前なんでその名前知ってん」