婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
「……私、イリムを嫌いだと思ったことはなかったんです」
「王太子様の話か?」
「はい。全然好きでもありませんでしたが、別に嫌いとも憎いとも思っていませんでした」
「あんなにこっぴどく裏切られたのに?」
「裏切られてはいないんです。初めから、互いに信頼などしていませんでしたから」
「なるほど。たしかにそうだな」

 レナートは苦笑している。

「で、王太子様がどうかしたか?」
「昨夜、初めてイリムを心底憎いと思いました。〈白い声〉を奪った彼を……」

 治癒能力さえあれば、こんな傷はすぐに治してあげられるのに。それができない自分が、もどかしく腹立たしかった。
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