婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
「もし、あなたが助からなかったら……どんな手段を使ってでもイリムを殺そうと、そう思いました。自分の中にこんなにも強い感情があるとは、知らなかった」
「……そうか。でも、この話はもう終わりにしよう」

 殺すなどと言って、不快にさせただろうか。オディーリアが弾かれたように顔をあげると、背中ごしに振り返ったレナートに唇を塞がれた。
 唇を割って、熱く柔らかなものが侵入してくる。息もできないほどに、深い口づけだった。

「お前の口から、他の男の名など聞きたくない」

 彼女の唇を開放したレナートは、そう言ってふっと笑った。

「俺の名前だけを呼んでおけ」
「……レナート」

 オディーリアは上目遣いに彼を見つめ、その名を呼んだ。名前を口にするだけで、痛いほどに胸が甘く疼いた。
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