ここは会社なので求愛禁止です! 素直になれないアラサー女子は年下男子にトロトロに溺愛されてます。
 キッチンからとてもいい匂いが漂ってきてお腹がグゥ〜と鳴った。聞こえちゃったかな!? と焦ったが換気扇の音の方が多分大きいだろうと一安心。
 男の人が料理をする所なんて滅多に見ないので新鮮だ。ついテレビよりも松田の方を見てしまう。

(仕事も出来て行動もスマートで料理できるってハイスペックだな……)

「水野さん、そんなにお腹空きました?」

 ニヤニヤ笑いながらフライパンとフライ返しを両手に持つ松田がこちらを見ている。

「んなっ! 違うわよ! 料理できて凄いなぁって見てただけよ!」

「俺と付き合ったら毎日美味しいご飯作ってあげますよ?」

 毎日美味しいご飯……なんて魅了的な言葉なんだろう。つい、お願いしますと言いたくなる。

「くっ……遠慮します」

「ははは、あと少しで出来ますから」

 ズラリとダイニングテーブルに並ぶ料理を目の前にしお腹がグゥと鳴らないか心配で、腹筋に力を入れてみる。

「水野さんワインでいいですか?」

「い、いいわ、ありがとう」

 コポコポとグラスに赤ワインを注いでくれたが、それは私の目の間に置かれ松田のグラスには透明な液体。

「あれ、松田君は?」

「俺はノンアルコールで、帰りに水野さんを自宅まで送り届ける使命がありますからね」

「え……いいわよ、電車で帰るし」

「いーんですよ、俺がそうしたいの」

「あ、ありがとう」
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