咲いた花を夢とす

出逢い。

コンクリートむき出しの建物。
中には避難した民で溢れかえっている。

「旨かったなー。ラーメン。」
手元には店の名と場所の地図が書かれたポケットティッシュ。
「いいなぁ。俺も食べたかった。」
石の階段に直に座り、膝を抱えながら剛が言う。
「ボクも!」
赤いだぼだぼなジャージを着たカズも声をあげる。

私はため息をつき、ティッシュをポケットに仕舞う。
ほこりっぽい街並みを嫌悪するかのように立ち上がり全身の埃を叩く。

至る所に設置されたスピーカーから大音量で流れる声。
[避難して下さい!敵軍の攻撃が始まります!]

「あぁ、うるせぇ。」剛は頭を抱えると目の前の二階建てだった建物の一階に設置された自販機を足蹴する。
がこん、と機体は凹み、埃が舞う。
「やめなよ。」
私はそんな剛を宥めるように言い、室内に戻る。

戦争が始まってから、人々から笑顔が消えた。
只、切々と一日を生きるだけの人、
怒りやどうしようもないストレスに悩まされ、愚痴ばかり吐き、酒に溺れる人、
そして…
この時ばかりと負の力に魅せられ、暴力的になる人…
恐喝、強姦、人を人とも思わないように殺戮を楽しむもの…
戦争の本当の敵は他国ではない。
人の内に住む、悪魔だ。
壊された家屋に、繋がらない電気。水道からは茶色い水。
配給されるホンの少しばかりの食事。
剥き出しのコンクリートや鉄筋、爆破され至る所に窪みが出来た道、
蔓延する病魔…
補正されてない道から巻き上がる埃で目や喉をやられ、身体中埃まみれ。
かぴかぴになった髪や肌を洗う手立ても今は無い。
そんな中、
私は剛と出会った。
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