咲いた花を夢とす
剛は以前、テレビの中で活躍していた所謂アイドル。
若者の間ではそこそこ有名で、ダンスが上手くて人懐っこい笑顔が人気だった。
避難所で戦力になる若者を志願させようと何人もの役員達がやってきた。
無論、私は女だから特に声は掛からなかったけれど、男性でそこそこ若い者は声を掛けられていた。
そこで生気を無くして地面に座り込んでいた剛にも声がかかった。
ずさずさと埃を舞い上げながら役人は座り込んでいた剛を足蹴する。
「おい、お前。立ってこっちへ来い!国の為に戦うんだ!こんな所で野垂れ死にするよりもマシだろう。」
「…。」
「聞いているのか?」
ぐったりした剛の腕を掴み上げ、立たせる。
髪はぐしゃぐしゃで顔は埃で薄汚く、目はどろりと生気を失った様は以前テレビで見た剛とは別人だった。だれもそれがあの剛だと解らなかったに違いない。
「おい!しっかりしろ!」
役人はふにゃりとすぐに座り込んで仕舞う剛に怒鳴り、左右に揺する。しかし剛は身を任せるだけで何も応じない。
「糞が。」
そう言い放ち、役人は剛から手を離し、違う人材を探しに行った。
そこへ赤いジャージを着た12.3の男の子が駆け寄り、大丈夫?と剛に声をかけている。
剛はあぁ、とかなんとか声にならない音を発し地面に崩れた。
一部始終を見ていた暇な私は(皆自分でいっぱいで人に構う余裕がないのだ)
赤いジャージと目が合い、何故か微笑んでしまった。すると赤いジャージは嬉しそうにこちらに駆け寄ってきて話始めた。
「ボク、カズって言うんですけど、あの人…多分テレビで活躍していたアイドルの、ホラ!花が〜♪って歌!あれ歌ってた剛さんだと思うんです。ボク、大好きで、絶対あぁなるんだって夢で…でも今はこんなだし…こうして出会えたからには何か役に立ちたいんです!お願いです!一緒に力になってくれませんか?」
一気にそうキラキラした目で捲し立てられると流石にいやとは言えずに…
「取り敢えず、水とか飲ませてあげたらいいんじゃない?」
「そっ、そうか!手伝って下さいよ!」
そう言われて手を引っ張られた私はこの赤いジャージを着たカズと剛と三人でここ何日か一緒に行動しているのだった。
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