淋れた魔法
「ゆり先輩の夢ってなんですか」
自分で思っていたよりずっと低い声になってしまった。
いつもの自分が取り繕えない。
迫ってくるのは、焦りなのか、あきらめなのか。
「…はずかしいから、きみには言いたくない」
なんだそれ。
ただアイツと自分にだけ存在してる何かを守りたいだけだろ。
──── おれのことも見てほしい。
「……おれも、夢ありますよ」
見栄を張った。
本当はそんなものはなくて、だけど、ちょっとは興味を持ってもらえるかなって…そんな情けない、恥ずかしいってこういうことだろって感じの、感情。
だけどゆり先輩は、何の本を読んでるのかを問いた時よりも、好きだって気持ちを込めた陳腐な言葉を投げた時よりも、ずっと、ずっと光った目でおれを見つめた。
「そうなの? 土屋凜、夢があるの?」
「……っ」
おれのことを知ろうとする質問、初めてされた、かも。
浮き足で近づいてくる。
ぐっと身を寄せて、知りたいって顔をする。
「どんな夢なの?」
青木ゆり先輩は、おれが知る人たちの中で、最も孤高だ。初めて見た時から、このひとがどうしてひとりでいるのか、本の中に何かを探し出そうとしているような瞳が、気になって仕方なかった。
話しかけても冷たいのに、纏う空気はあたたかくて。
誰より触れたいのに、絶対に触れられないような気がするひと。
おれなんて彼女の人生に足跡すら残せないんだろうなって、付きまとってるくせに、そう思っていた。
だけど、そんなゆり先輩が、おれを見て、目を輝かせる。
まるで自分が本になったような変な感覚に陥った。
そしてそれは、思わぬ方向へと転がっていく。
「おれ──── 小説家になりたいんです」
ばかなのは、おれだ。
口からこぼれ落ちた嘘に、頭を抱えたいような気持ちになった。