戀を手向ける


デイリーヤマザキで胡麻饅頭を買って食べていると、うらめしい視線が隣から突き刺さった。


「しかたねえだろ、おまえ死んだんだから」

「そうだけど、わたしの大好物を目の前で食べることないでしょ」

「じゃあどっかいけば。俺は食いたいから食ってんだよ」


売り言葉に買い言葉。いつもみたいなやりとりをしたつもりだったけど、藤宮守寿は初めて見るような表情を浮かべた。


「…え、怒った?」


怒るとかふてくされるとか機嫌をそこねるとか、そういうことは今までなかったから、ちょっと興味が出る。


「おこってないもん」

「いや、怒ってる。初めて見た。すげー」

「なにもすごくないでしょ」


いや、すげーだろ。あんだけ付きまとわれて初めて見る顔がまだあったんだ。すげーだろ。

そりゃ本当は分けてあげたいけど、無理なもんは仕方ねえよ。手と違って口にかざしても食べた気になんかならねえだろうし。


「食べながら歩いたらだめでしょ」

「あーはいはい」


自分が食べられないからって口煩い。

よく寄った公園に着くと藤宮守寿は真っ先にブランコに駆け寄って座った。


「え、座れんの?」

「座れた!すごいでしょ!感覚はないけど!」

「それ空気椅子してんじゃね?」

「えーでも足つらくないよ」

「ふうん」


ブランコを囲う鉄棒に寄りかかろうとしたらもう片方のブランコを指さしてくる。すぐに首を横に振って嫌がった。

傍から見れば男子高校生がひとりでブランコ乗ってるの変だろ。こいつ俺のことは何も考えてないな。

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