戀を手向ける


「ねえ胡麻饅頭おいしい?」

「うん」

「わたしが最後に食べたの、直矢くんがこっそり病室に持ってきてくれたやつだ」

「ああ、あれね。見つかりそうになってやばかったよな」

「ねー。スリル満点で楽しかったねー!」


楽しんでたのはこいつだけで、俺はバレたらこいつの親に殺されるんじゃねえかって内心びくびくしてた。こいつにとっても良いことだとは思ってなかった。

ハンバーグも、胡麻饅頭も、夏の海も、氷入りの飲み物も、映画館も水族館も美術館も動物園もあきらめないとならなくなった藤宮守寿は、それでも毎日新しい好きなものを見つけて、さすがにすげーやつだなって思って。そのごほうびのようなものだった。



「あれ、食べれて本当によかったなあ」


俺のことを褒めるみたいな顔で笑う。


「未練があると成仏できなそうだって言ってたから仕方なくだよ」


それなのになんで、まだここにいるんだよ。

俺の情けない声なんで無視してくれたらよかったのに。


「…直矢くん、ぎゅってして」

「できねえだろ」

「大丈夫だよ。いっぱい憶えてるもん」


そんなにしてねえんだけど。


良いって言ってないのに飛びついてくる。それなのに当たり前のように勢いは感じなかった。

背中にまわったであろう華奢な腕。


そういえば、今の藤宮守寿は、死ぬ前と違ってちゃんと丸顔。

揶揄ったつもりでいると「愛らしいでしょ」って得意げになるから言わないけど。


だけどやっぱりすぐに思考に現れるのは、最後のほうに見た、丸顔の面影もない細くなりすぎてうまく抱きしめられなかった姿だ。


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