戀を手向ける
土曜日、朝の8時に呼び鈴を鳴らしてきた藤宮守寿に「早いんだよ寝かせろよ」とさすがに怒ったけどぜんぜんへこたれてない顔で「眠っててもいいからね」と家主みたいな口調で言われた。本当に敵いっこない。
部屋は昨日のうちに片付けておいた。実は体育祭の時に無理やり撮らされた写真を置いていたから、それは一番最初に隠した。
「おうちのひとは?」
「姉、デート。父母、デート。弟、野球」
「そうなんだ。直矢くんのお父さんとお母さん仲良しだね」
「仲良すぎて気持ち悪い」
「そう?わたしもお父さんとお母さんみたいにいつまでも直矢くんと仲良くいられたらいいなって思うけどなあ」
なんてことないって口ぶりでつぶやかれた言葉は、うれしいはずなのに、切なく響く。
「あっそ」
投げやりの言葉をつぶやくと、照れてる、と彼女は楽しそうに俺を揶揄った。
のん気なやつだな。
部屋に入るとくるくると見渡して「直矢くんの部屋が病室だったら毎日入院したい!」と不謹慎なことを堂々言ってのけた。意味わかんね。無視しよ。
「卒業アルバム見たいな」
「嫌」
「じゃあ何するの?」
こっちが聞きたいんだけど。
仕方なくアルバムを差し出すと「ありがとう」と満足げに言った。
ぱらり、とページをめくる音。
何組?と聞かれて、わすれた、と答えた。
小学校も中学も思い出は何もない。アルバムだってただもらったから部屋に置いてあるだけ。
「ぶふふ、見つけた。直矢くんの本当の髪の毛って真っ黒なんだね。小学生の直矢くん、かわいい。弟にしたい」
「黙って見れねえの?」
「黙って見ても直矢くんがつまらないでしょ」
弟みたいとかかわいいとか言われてもべつに楽しくない。それなのにこいつは、自分が一緒にいるだけで俺が楽しくなると思ってるみたいな態度をいつもする。お気楽だよな。