戀を手向ける
長いな、と思っていたけど、どうやら今までで一番短い入院生活だったらしい。
退院した彼女は絶好調に風紀委員の仕事を全うしながらも体育の時間だけ俺とサボる。こいつはサボってるわけじゃないんだけど。そのサボりの時間と下校の道のりは、主にピアノを弾いているのを聴かされたりテスト勉強をさせられたり好きなものの話を100個くらい喋られたりする時間になった。
150センチの身体のなかに、毎日、毎時間、いや毎分毎秒、話したいことが出来上がるらしい。
よくそんな喋れるなって尊敬しそうになるくらいノンストップ。ぽってりとした話しかたをするから聞いたことのだいたいが俺のなかにも残るから178センチある俺のほとんどがこいつの言葉で埋め尽くされているんじゃないかと思う。そんなわけないけど。喩え話。
「あのね、直矢くん、お願いがふたつあるんだけど聞いてくれる?」
「内容による」
「そこはどーんとなんでも聞くよって感じにしてもらいたかったな」
なんか企んでそうな顔して言うから思わず身構えてしまった。
振り回されてるって思ってるから、改まってお願い、なんて言われたら振り回されるどころじゃない気がした。
「じゃあ言うよ。ひとつめ。直矢くんの家に行ってみたいです」
にこにこ。まじでこういう効果音が似合う笑顔をする。こっちまで巻き込んでくる顔。
「…は?嫌に決まってんだろ」
「決まってないでしょ。明後日の土曜日に行くね」
そっちは決定事項かよ。
ほらな、振り回される。良いなんて言ってないのに「楽しみだなあ」って、自分ならなんでもゆるされるとでも思ってんじゃねえの、きっと。
完全にこいつのペース。いつもそう。ため息をついても、文句を言っても、何をしても、敵いっこない。