戀を手向ける


絵本を読んでるみたいだなって思った。

楽しそうに話す風紀委員。それは理想が詰まった、現実にするには長い月日がかかりそうな、たくさんのがんばりが必要そうな、けっきょく叶わなそうな、だけど叶わなくたってべつにいいと思っていそうな、そんな話。


「その髪、本当はわたしの髪よりずっときれい」

「……」

「でもその外見でつんとした態度ばっかりとってたら、ぴりぴりした空気になって、みんな、きみのことこわいひとだって思うっちゃうよ」

「…べつにいい」

「きみは良くても、みんながこわい思いをする。それってどうなんだろうね」

「……」

「大丈夫だよ、わたしとは話せるんだから、入海直矢くんは大丈夫」


勝手なことだけ言い残して彼女は行ってしまった。

なにが大丈夫なんだよ。一方的に喋ってただけじゃねえか。自分が基準なんだろうな。どういう生き方してきたらそんなふうになれるんだよ。くそうぜえ。

そもそも2度目ましてってなんだよ。話が長えよ。理想ばっか語ってんじゃねえよ。どうせ今思ったことぜんぶぶつけたら「わたしの勝手でしょ。きみと同じ」って責めるみたいに言うんだろうな。


“大丈夫だよ”


自分基準の何の保証もない言葉。

それが頭の中で繰り返されて、しつこくて、すげーめんどくさくて、うざくて、半ば投げやりに、俺はその日初めてクラスメイトと会話をした。







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