これを愛というなら~SS集~
本当に、あの女は最低だ。

どうせ私の彼氏が自分好みだったから、愛人の一人にしたかっただけ。

そうやって、いつも私から大切な物を奪っていく。

父が残してくれた会社も、母が離婚する前にくれたルビーのネックレスも、継母の浮気を知らない振りをして一人で抱え込み、会社の運営に打ち込み心労で病気になって亡くなった父の命も。


だけど、蒼大くんだけは奪わせない。

私なんかを好きになってくれた人、初めてをたくさんくれる人。

今よりもっと好きになれる人、させてくれる人だから。


横浜の一等地に建つビルに足を踏み入れる。

蒼大くんと固く手を繋いで。


何年ぶりかわからない其処は、相変わらず眩しいくらいの煌びやかさ。

最上階の社長室からは、陽射しが煌々と注いでいて、椅子に座っているお義父さんを照らしていた。


よく来たね、環奈ちゃんって出迎えてくれたお義父さんは、社長室のソファーに蒼大くんと私に座るように促してくれる。

秘書さんが出してくれたお茶を一口すすり、お話とは?と蒼大くんを見据えた。

瞳は穏やかで、ダンディーな雰囲気の歳のわりには若く見える。

父に何処と無く似た感じのお義父さんを、私は嫌いじゃない。

きっと、父と同じように継母に色仕掛けかなんかで、騙された朽ちかもしれない。


蒼大くんが、継母の今までの所業と自分にも私の男になりなさい、と言って来た事を話してくれると……。

穏やかな瞳は鋭くなって、やはりな、と呟いた。


「薄々は気づいていた。だが、環奈ちゃんの彼氏にまで……とはすまなかったね。この会社を共に継いだ時に改心したと思い込んで、野放しにしていたワタシの責任だ。環奈ちゃんからお父さんと会社を奪ってすまない。ずっと言えなかった事を今、漸く言えた」


そう言って、頭を座ったまま深々と下げてくれた。

頭を上げて、と言うと、本当に申し訳なさそうな瞳で、嘘ではないと物語っている。


「お義父さんは悪くないです。最低なのは……あの女。だけど今さら、謝って欲しいとも思いません。ただ、これ以上は私に構わないでほしい。出来る事なら縁を切ってほしい。母がくれたルビーのネックレスを返してほしい。それだけです」


「わかった。下調べをして、証拠を突き付けて……アイツとは別れよう。そうすれば環奈ちゃんとの縁も切れるだろう。だけど、彼と一緒になるまでは戸籍上はワタシの娘で居てくれるかい?環奈ちゃんのお父さんが残した会社は、ワタシが責任を持って守る」


なんて優しい人なんだろう。

この優しさは、やっぱり父に似ている。


あとは任せてくれ、と。

蒼大くんに、環奈ちゃんを守ってくれ、と。

環奈ちゃんには手出し出来ないように根回ししておく、と言ってくれたお義父さん。

ありがとうございます、と蒼大くんと頭を下げて会社を後にした。
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