鬼の棲む街
新生活
「・・・ぁ、や・・・っぁぁあ」
□□□
微睡みから目覚めると広いベッドに一人だった
・・・帰ったのね
手を伸ばして携帯電話を引き寄せる
焦点の緩い視線が捉えた時刻はまだ四時
枕の下に携帯電話を差し込んで、もう一度まぶたを閉じた
□□□
リリリリリリ
今度はアラームで起こされる
気怠さが残る身体に気合いを入れて起き上がると微かにハーバルの香りがした
僅かに残る白の痕跡に夢じゃなかったと安堵した
引越しは父様が手配した業者が全てやってくれた
私は基の運転で世話係のお手伝いさんを一人連れてこの街へやって来た
私が持って来たものは
お気に入りの洋服と下着が少し
あの街へ戻る時は全て処分しなければならないから極力想いのあるものは持ち込みたくなかった
全てに執着しない生き方をするようになったのは希望を捨てた日
娘の人生さえ自分の事業の為なら駒にする
そんな父様に育てられたのだ
嫌でも現実と向き合うしかない
「できた」
デパートのショップで見つけたハーブティ
美肌のためのローズヒップにハマって以来
最近はこれしか飲んでない気がする
来週から大学の健康診断を含めたオリエンテーションが始まる
その前に一度見ておきたいと白は態々電車に乗って遊びに来てくれた
高層マンションの中層階の2LDK
一頻り見て回った白は大きなベッドが鎮座する寝室へ入った途端、私を押し倒した
まさか寝落ちしたところを放って帰られるなんて思わなかったから少し凹んだけれど
白も私と同じように呪縛から逃れられない運命
・・・元気でね
せめて、顔を見て言いたかった
その思いをハーブティと飲み込んだ