鬼の棲む街



「じゃあ帰るか」


強引に手を引かれて控室を出る

タキシードとドレスの二人は会場である階を離れるだけで視線を集め始めた

肩を出したドレスは寒くてジャケットを貸して欲しいと言おうとして

やめた


きっとハーバルの香りが苦しくなる


それなら寒いままで良い

繋がれた手に自己完結させて

またひとつ諦めた




・・・




「・・・・・・此処」


「ん?俺ん家」


白の家は何度も訪れたことのある高台にあるはず

白の運転する車に押し込まれて着いた此処はマンションの地下駐車場


「一人暮らし始めたんだ」


得意顔でそう言った白は器用に車を止めると助手席のドアを開いた


「えっと・・・」


帰りたいんだけど

有無を言わせず腰を抱いた白は
そのままエレベーターに乗った

最上階ではないけれど高層階で降りる


「気にいると思うぞ」


そう言って玄関扉を開けた


「・・・っ」


途端にハーバルの匂いが強くなった


促されるまま中に足を踏み入れる

突き当たりのガラス扉を開くと真っ白な空間に息を飲んだ


「とりあえずさ、白にしたんだ。差し色は雪が決めて良い」


まるで私の為と言わんばかりの口調に探る気持ちが芽生える

それが表情に出ていたのか


「ん?今日から此処に住むんだぞ?」


さも当然と言う顔をした


「今日、から?」


「あぁ。親父さんの話聞いてなかったのか?」


白の表情が徐々に変わる


「え、いつ?」


呆然としていた時だろうか。白の話に意識が削ぎ落とされていた時?

思い返そうとするのに父様の声は『婚約が整った』を最後に残っていなかった

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