鬼の棲む街








「愛の指示に抜かりはないが、なにより緊張した」





巧の声が首筋から身体に届く




「小雪」




叶わないと思っていた願い


巧のスパイシーな香りに包まれているだけで人形だった自分に血が通ってくる実感が湧く



暫くそのままでいたけれど
不意に顔を上げた巧は片方の眉を上げた



「小雪」


「ん?」


「頭が怒るぞ」


「・・・」


巧の視線を追うと私の首筋を見ていた

そこに何があるのかなんて私が一番知っている


「お仕置きされるな」


「フフ」


こんなやり取りでさえ楽しい


「痩せた、な」


そっと頬に触れる手は僅かに震えていて

私より傷ついてみえる表情は瞳を揺らしている

そんな些細なことも白の元では叶わなかった



「愛に聞かされた時、頭は飛び出そうとした」


「来てくれようとしたのね」


「俺達全員、小雪が俺らの前から消えると思って焦った」


「愛さんじゃなくて?」


「どうして愛が出てくる」


「だって、薬指にいつもキスしてる」


「そっか、無意識だな
ただ、愛はそういうんじゃない」


「どういうの?」


「愛は愛龍会での親だから
俺達にとっての唯一無二ってこと」


唯一無二の親


常人に理解し難いことは深く考えないほうが良いのかもしれない


「そっか」


「あぁ」


「なんだか・・・夢、みたいだね」


「夢じゃねぇ」


「・・・諦めてたの」


「簡単に諦めるな」


「だって」


「約束しただろ。来年桜見るって」


「うん」


「とっておきの桜だって」


「そうだったね」

















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