鬼の棲む街
愛しい鬼達





巧の膝の上に乗ったまま長い腕に包まれているだけなのに心が温かい


窓の外は飛ぶように景色が移り変わり

不安を拭えなかった気持ちが囚われていた場所から離れる距離の分だけ楽になっていく



そんな私をギュッと抱きしめたり頭を撫でてくれる巧


時折、髪に手櫛を通してみたり頬や髪に触れたり


背中をトントンと叩いては「大丈夫だ」と宥める


図々しいとは思ったけれど心地の良さに縋り付いていた



・・・




「もうすぐ着く」


そう聞いたのは高速道路から降りるところでGWの影響なのか幹線道路は大渋滞だった


「眠くはないか」


「うん」


「お腹空いただろ」


「・・・そうね」


「このまま本家へ行くから、そこで食べよう」


「・・・うん」


渋滞は緩和されることもなくワゴン車は長い時間をかけて鬼の要塞に滑り込んだ


車から降りると手を引かれた

地下からエレベーターを乗り換えて
あの桜の木の階で降りる


龍の襖絵が開くと着流しの紅太とスーツを着た尋、そして愛さん夫婦が待っていた


「おかえり」


愛さんの優しい声に
また鼻の奥がツンとして涙が滲み

止まっていたはずの涙が溢れる


隣に座った巧は頭を撫でてから涙を拭ってくれた


「・・・た、だいま」


「迎えに行かせたの、巧で良かった?」


どういう意味だろう

いつもの緩い巧ではなかったけれど
尋みたいな強い押しがない分気持ちは楽だった


「はい」
そう思って返事をする


クスクスと笑った愛さんから尋は顔を背けた










< 136 / 205 >

この作品をシェア

pagetop