鬼の棲む街
対峙


・・・どうしたの?私


その手を見つめながら、おかしな自分に戸惑う私をフワリとフローラルが包み込んだ


今度はその匂いに酷く安心する

そんな私の耳に飛び込んできたのは


「親の前で娘に手を出すとは良い度胸じゃねぇか、紅太」


クスクスと笑うパパの声と


「姉の許可もいるわよ?紅太」


同じように笑う愛の声だった


「チッ」


パパと愛に責められて舌打ちする紅太


“違う”と訂正しようかと思ってはみたものの


元はと言えば攻めてきた紅太によって乱されたようなものだから助け舟は出さないことにした


そんな私に気付いているのか


紅太は私を腕の中に収めたまま


「覚えてろよ」


耳元で囁くように脅してきた


その声が甘くて

また急速に頬が熱を帯びる


こうなったらこの赤い顔を隠すために紅太の腕の中に居座るしか選択肢はない


離されないように紅太の背中に手を回すと僅かに息を飲むのが分かった


少しは動揺してくれたかな?何をしても敵いそうにないから反応があるのは嬉しい


泣いたり笑ったり赤くなったり
これまでの私では考えられないほど感情が動いて騒がしいのは何故?


初めて会ったあの雨の日から纏う空気はブリザード級なのに冷たい人だと思えないのは何故だろう


短いメールの文面も

繋いでくれる温かい手も


不意に見せる笑顔も
甘く囁く声も


鬼だとは思えないほど人間味に溢れている


少し高い紅太の体温に微睡む意識は奪われて


その腕の中で目蓋を閉じた




























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