鬼の棲む街
甘い鬼



紅太の口から聞かされる昔話は実の両親から捨てられたという重い話だった


「祖父母と本家で暮らしていたけど兄貴は兄弟じゃないみたいだった」


一ノ組の跡継ぎとしてのお兄さんと疎外感を感じていた紅太

そこに現れたのが愛と一平さんだった


「本家に来る愛はいつも一平さんが大事そうに手を繋いでいて
きっと俺も兄貴とそうしたかったんだと思う」


小さな頃から一緒に居た愛と一平さんの強い絆の前に
お兄さんとの距離感に悩む紅太が見えた気がした


「ある時、桜の木の低い枝に座った愛を見つけた」


「それがこの木?」


「そうだ。もうその枝はないがな」


紅太は一度視線を戻すと昔を懐かしむように目を閉じた


「愛は心細かったのか泣いていた
俺は助けてやりたい一心で一平さんがするみたいに“俺が受け止めてやる”って手を広げた
俺を信じて飛び降りた愛は枝の節が太腿を裂いて三針も縫う大怪我をした」


「・・・っ」


「一生消えない傷を付けた俺の罪を一平さんも愛も責めたりしなかった
その代わり、それ以降本家で二人を見かけることは無くなった
だから俺自身への枷として、一生償っていく為の覚悟に髪をあの日見た血の色にした」


あまりに重い内容に言葉が出てこない


「だが、三ノ組を預けられた日
愛から“許してやるから黒髪に戻せ”って言われた」


愛も・・・きっと気にしていた


「髪を戻す代わり、あの日の覚悟を忘れないように兄貴に頼み込んで此処に植えた」


何故だか紅太が泣いている気がして強く握りしめている手を取った


「双子から“紅太さんの特別”って聞かされていたけど愛との深い繋がりのある桜なのね」


「今は俺への戒めだけだと分かる」


「今は?」


「傷を付けた愛への想いだと。愛情だと、ずっと考えていたが
ただ、囚われていただけだと最近分かった」


「最近なの?」


「あぁ」


紅太の左手を持つ私の手に右手を乗せて


「小雪に会って、それが分かった」


真っ直ぐ射抜く瞳を


瞬きすら忘れて魅入る








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