鬼の棲む街



「思い通りになんねぇ」


そう言ってフッと崩れた紅太の表情は悪戯っ子のようで


「フフ」


肩の力が抜ける


「それなのにいつも頭を占めて気になって気になって仕方がねぇ」


また直ぐに熱の籠った視線を向ける紅太に胸がギュッと締め付けられる


「柄にもなく手を繋ぎたくなるのも」


「・・・」


「抱きしめたい相手も」


「・・・」


「全部小雪だけで」


「・・・」


「一人を貫く覚悟をしてきたのに二人で居たいと思う俺自身に戸惑ってる」


「・・・」


「震えてる小雪を抱きしめたのは小雪のためじゃねぇ、全部俺がそうしたかったから」


「・・・」


「アイツとキチンと別れさせたかったのも全部俺の狡い考えからだ」


「・・・」


「それほどまでして俺を見て欲しいのは」


「・・・」


「小雪のことを、どうしようもなく好きだからだ」


「・・・っ」


呼吸すら忘れるような紅太の告白に堪えていた涙が頬を伝って落ちた

キスの理由が欲しいと願っただけなのに紅太はちゃんとそれをくれた


「返事は欲しいが、今すぐじゃなくていい」


そう言って涙を拭ってくれた長い指は僅かに震えている


返事を急かされてもいないのに伝えたいと思う気持ちは既に決まっているんだと思う


「・・・馬鹿」


「フッ、悪口か」


「先延ばしにするなんて、怖いの?」


そう言う私の声も震えていて
漆黒の瞳に映るだけで胸が苦しい


「あぁ、怖い」


冷たい鬼の癖に優しくて温かい


その温かさを


独り占めにしたいなんて




私も狡い



「私もよ」


「・・・っ」




『会いたいと・・・
純粋に、ただ会いたいと心が言うの』

愛のくれた言葉が今の私には痛いほどよく分かる

白の元に囚われていた日々に
会いたいと願った“鬼達”

でも今は・・・

その会いたい人は一人に絞られた


誰より
紅太に居て欲しい


ただ・・・そばに居て欲しい






「・・・敵わねぇ」






ギュッと腕の中に閉じ込められた身体は
最初から此処が居場所だったかのように隙間なく収まった








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