鬼の棲む街






「やべぇ」


「ん?」


「時間がねぇ」


「へ?」


なんだか慌てた紅太に抱き上げられて大急ぎで寝室へと戻る


少し息を切らした紅太を見ていると


「十分だけ部屋から出るなって指示してた」


急いだ理由を話した


「どうして?」


「どうしてって、このパジャマ姿を組の奴らに見せるのか?」


「・・・っ」


確かに生脚を惜しげもなく出したパジャマのままだけど連れ出したのは紅太だ


不満が表情に出たのか僅かに眉を下げた紅太は


「着替える時間さえ待てなかった」


そう言って立ち上がるとベッドの脇に置かれた紙袋を指差して


「着替えるといい」


フワリと微笑んで寝室を出て行った


「狡い」


普段は周りの空気を痺れさせるような威圧感を出しているのに

二人で居る時には表情も雰囲気さえもコロコロと変わる

かけ離れたギャップに恋愛経験ゼロの私は振り回されるだけ

間違いなく昨日から心臓を酷使し過ぎている


・・・愛に相談したい


ひとまず私の部屋に戻って電話しなきゃ



パジャマを入れた紙袋を持つと扉を開けた


紅太は大きなソファに長い脚を組んで優雅に座っている


近付いてテーブル上の携帯電話を取ると紅太の視線に捕まった

その視線から逃れるように


「帰るわ」


部屋を出ようと背を向けた瞬間背後から長い腕に囚われた


「小雪」


「ん?」


「此処じゃできないことか?」


「・・・・・・できれば」


そう返した私の身体は紅太の腕の中で反転していた


「敵わねぇ」


「ん?」




「俺の告白を“私もよ”なんて曖昧な言葉を使って焦らしておいて
今度はこのまま置き去りにするのか?」















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