鬼の棲む街



「お嬢様っ」



お昼ご飯に大広間に行くと中谷さんが駆け寄ってきた


「・・・っ」


その姿を見ただけで込み上げてくる感情が崩壊


抱きついて泣きじゃくる私を受け止めてくれた中谷さんは落ち着くまでずっと背中を撫でてくれた


「・・・中谷、さん」


「はい」


「もう、お嬢様じゃないわよ?」


そう言った私の隣で


「田嶋の事業は小雪の元家とは桁違いだぞ?」


隣に立つ紅太はサラっと真実を告げる


「マジ?」


「あぁ」


「中谷さん、まだお嬢様みたい」


「フフフ、はい」


「でも、あの家を思い出すから名前を呼んで欲しい、かな」


「お、いえ、小雪様、でよろしいでしょうか?」


「中谷さん残念、田嶋の家は“様”は禁止なの
パパとママだし、姉は呼び捨て」


「そうなんですか?」


「だから“様”はやめてね?」


「かしこまりました。では小雪さんってお呼びすることにします
私は田嶋様に雇われた身なので」


そう言った中谷さんは突然クビになったことを眉を下げて話してくれた


「でも、直ぐ田嶋様からお電話を頂いて・・・」


愛の優しさにまた胸が温かくなる


「中谷さんは通い?」


鬼の住処には女性は居ない
いくら私が居るとはいえ突然ヤクザの中に入ってくるのに一般人の中谷さんは勇気がいったはず


「いえ、お、小雪さんの部屋を頂きました」


「・・・え?なに?どういうこと?私、追い出されるの?」


突然焦った私に釣られて中谷さんまでオロオロし始める


それを収めるのは


「小雪は俺と住むだろ」


得意気な顔の紅太だった

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