鬼の棲む街



桜の木の下
着流し姿の紅太の纏う空気は油断すると凍りつきそうに冷たくて重い


その隣に立っているだけで一ミリも笑えなくなっていく


「子猫ちゃん緊張しちゃって〜」


巧が戯けたように頭を撫でてくるけれど

その緩い喋りも効果は無かった


三ノ組の会合は建物の三階にある広い会議室を会場にするという

尋から配置図と出席者リストを見せてもらったけれどサッパリ頭に入って来ない


緊張がピークに達した時
右手に持っていた携帯電話が震えだした


「・・・もしもし」

(緊張してるのね)

「・・・頭真っ白」

(大丈夫、小雪は私の妹でしょ?大きな顔をして紅太の隣に座っていればいいの
文句を言う奴が出たら睨んでやりなさい。特別に私が許可するわよ?フフ)

「・・・ん、分かった」

(大丈夫、私も一緒よ)

「ありがとう」



愛の言う“一緒”の意味は分からないけれど

優しい鬼達に守られているのだ
私らしくいよう


そう気持ちを強く持ったところで


紅太の側近がエレベーターから降りてきた


「皆さんお揃いです」


一礼した彼も表情は硬い


ピリとした空気を動かしたのは


「小雪」


どこまでも綺麗な赤鬼で


サッと差し出された手と別人かと見紛う柔らかな笑顔に


胸の真芯を撃ち抜かれた音がした





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