鬼の棲む街

それに合わせるように派手な着物を着た女性が立ち上がった


「紅太様、私は三ノ組傘下、宗像組の娘、香子ですわ
愛龍会の組長の妻になるならそれなりの女じゃないと務まりませんよね?」


「いいえ、紅太様っ!相応しいのは私です
宮沢組の娘、宮沢佳奈です
前回の会食の時にお酌をしましたの、まさかお忘れじゃないですよね?」


「貴方達!お黙りなさいっ!紅太様に相応しいのは私ですのよ?」


・・・怖


不思議に思った三人の女性は紅太目当てに父親について来た娘達だった


「モテモテじゃない」


溢れた小さな嫌みも


「ヤキモチか?」


拾ってくれる紅太は嬉しそうで燻り始めていた胸が一気に晴れる


立ち上がって牽制し合う三人と騒然とする会場を一瞬で静かにしたのは

いつの間に設置されていたのか
入ってきた入り口にかかる巨大スクリーンに映し出された愛と一平さんの姿だった


「煩いわね」


そのひと声で会場の空気が張り詰める


・・・愛


“一緒”はリモート参加のことだった

嬉しくなったのも束の間


「三ノ組の会合に娘を連れて来るって
会合を見合いの席か何かと勘違いしてるんじゃない?」


愛は静かに口を開いた
その声は荒げてもいないのに動きを封じられたように動けない

それは此処に居る人全て同じみたいで全員人形のように見える


その空気を破るみたいに


「組長の隣に座るのは私の妹の小雪」


愛は口元に笑みを浮かべて紹介した


「え、それじゃあ」

「娘がもう一人いたのか」

「聞いてないぞ」


それに反応して声は上がるものの小さ過ぎて愛までは届いていないみたい


そう思った、刹那


「龍神会を掌握する二ノ組の内情を知り得るのは今も昔も筆頭のみだ」


一平さんの低い声が制した






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