鬼の棲む街
燻る気持ちと・・・



紅太と双子が拷問食事会に出るのと入れ替わりに中谷さんが何やら重そうな包みを持って来た


「小雪さんと私の夕食です」


大きなダイニングテーブルに並べられたのは森乃家の松花堂弁当だった


「美味しそう」


可哀想な三人のことは頭から除外して小さく仕切られたお重に目を奪われる


「女将からワインも渡されました」


そう言って出されたのは森乃家でよく飲んでいたもの


「下の食事会のお料理も“森乃家”さんが仕切っているそうですよ」


「へぇ」


中谷さんと二人の食事は料理とワインもあって楽しくて

ついつい飲み過ぎ

お喋りに夢中になっている間に飛ぶように時間は流れ


「たっだいまぁ〜」


鬼達が帰ってきた


「お帰り〜」グラスを持ち上げて可哀想な三人に乾杯


近付いてきた紅太はグラスを取ると一気に飲み干した


「甘めぇ」


「フフ、甘めの白だもの」


両手を伸ばして抱っこをせがむ

フッと頬を緩めた紅太に軽々と抱き上げられた


そのままソファに移動して膝の上に抱かれた私に


「小雪さん。私はこれで失礼します」


お重を片付けていた中谷さんから声がかかった


「おやすみなさ〜い」


「はい。おやすみなさいませ」


気配が消えると双子が向かい側に座った


「子猫ちゃん上機嫌」


「んだよ、楽しそうに」


不貞腐れた双子に舌を出して


「紅太、双子が喧嘩売ってくる」


その胸元に擦り寄ったのに


「俺も退屈だった」


どうやら紅太も敵だったらしい


楽しいやり取りにクスクス笑って


頭を撫でてくれる大きな手が温かくて


いつしか微睡む意識を手放した





< 188 / 205 >

この作品をシェア

pagetop