鬼の棲む街





ーーーーーー週末、金曜日




精一杯背伸びしたからかクラブDragonのセキュリティチェックは証明書を見せることなくパスした


手荷物をロッカーに預けて大音量のフロアへと出た


「凄い」


初めてのクラブに音楽の重低音に合わせて鼓動が早くなる


「まずはドリンクね」


ポケットに入れたチケットをカウンターで出せば


「お、初めましてだね。美人さん」


長い髪を後ろで一つに縛ったバーテンダーがチケットを受け取りながら微笑んだ


「なんで・・・」
分かるのと続けようとした口は


「こんな美人、一度見たら忘れないよね〜」


紗香の軽口に止まった


「そうそれ」


相変わらず胡散臭い笑いを張り付けたバーテンダーは


「美人なお二人は何にする?」


綺麗な所作でメニューを差し出した


「んーっと」

ザッと目を通して


「シャンパン」


そう言って視線を合わせると


「サービスしちゃう」


意味不明なことを口走ってカウンター裏へと消えた


「なに?」

その意図が分からず紗香を見るけれど


「なんだろ」


紗香も同じようだった


そして、再度現れた時には片手に瓶を持っていて


「美人な二人へお近づきのピンドン」


そう言って並べたグラスにそれを注いだ

綺麗なロゼにひとつ微笑んで紗香と乾杯する

久しぶりに口にしたそれは辛口で口当たりが良かった


「小雪と一緒だと得したぁ」


初めて飲むという紗香は照明にグラスをかざしては笑っていて、なんだかいつもより可愛らしい


「ホール見てみたい」


カウンターに寄りかかったままも居られなくてグラスを片手に移動した


ドリンクカウンターに背を向ける正面に広いホールがある

その円形のホールを縁取るのは腰の高さの手摺り
それは少し幅広でドリンクを置いてお喋りが出来るカウンターの様でもある

手摺りの切れ目は五箇所あって数段の階段を降りたホールは壁面をボックス席が囲んでいる


「広いね」


シャンパングラスを片手に眺めるホールは沢山の人で埋め尽くされていた



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